夏がくれば思い出す

隣りの市にあるクリニックでいつものように薬をもらってきました。
あいかわらず日差しは強く、コンクリートの地面から立ち上る熱気には思わず顔をしかめてしまいますが、ひとたび日陰にはいると思いの外風は涼しく、見上げれば空には鰯雲。もう秋の気配です。

うちは8階なので風が良く入り、玄関とベランダをあければそれほど暑くもなく、ここ4〜5日エアコンいらずです。

先日「夏を拾いに」という本を読み終えました。
感動の少ない小5の息子に父親が自分が同じ歳の夏休みの思い出話を、不発弾さがしを中心に話して聞かせるわけですが、話しのはしばしに昭和46年のにおいがぷんぷんします。私の小学校時代は昭和39年から45年なのでタイムラグが少しありますが。

登場人物の中の「雄ちゃん」は最新の5段変速ギアの自転車に乗っています。
今でこそ子供用自転車でも8段10段は当たり前になりましたが、あの頃は私も喉から手が出るほど欲しいアイテムでした。
なにしろ後ろには「電子フラッシャー」なるウィンカーがついていて手元のスイッチを入れると5つのオレンジのランプが連動して光が流れる仕組みです。まあ今のトラックみたいですが。
 ハンドルはセミドロップ。しかも前部にはツインヘッドランプとウィンカーを装備。変速レバーはフレームの上についていて左手で掴んで前後にカシンカシンと操作するというおおげさなものでしたが
プラモ少年だった私はその「メカニズム」に惚れ込みました。
 やっと買ってもらった時はもう嬉しくて、目的もないのに夕方になるのを待って、意味もなくカーブにさしかかってはウィンカーを出して自己満足に浸っていました。

 何年かして雨にうたれ、あちこちにサビが出てきてウィンカーも動かなくなり、やがて私の興味は他へ移っていきました。ある日ウィンカーの機械のボックスを分解してみました。「電子」というからにはすごい複雑な構造になっているのかと思ったら、中には単1電池が数個とモーター、それに連動するギアや黒く丸いパーツがぽつんと入っているだけでした。

 悲しいことに都会育ちの私には息子たちに話して聞かせるような子ども時代の冒険談はありません。
ただただ毎年夏がくるたびに懐かしさが増してきて、苦しいような甘酸っぱい思いに胸が満たされるのです。