マンガのこと その2

ちばてつやの短編に「蛍三七子」という作品があります。(昭和47年少年マガジン掲載)
大学生の浩が旅先の町で三七子という女性と知り合います。三七子には地元の大きな製紙工場の御曹司である婚約者がいますが本人は乗り気ではありません。
 さまざまなエピソードをへて、三七子のかたくなな心は次第に浩にひらかれていきますが、ある日第2製紙工場の建設現場で、三七子が死んだ兄の思い出として大切に育てていた蛍の養殖場が埋め立てられてしまいます。

怒りに我を失った三七子はダムの堰を開いて川下に水を放流して工場を破壊しまいます、工場関係者や下流の町の人々はこぞって三七子やその母親、浩たちに仕返しするために襲いかかろうとします。そのとき期せずして人々の頭上に美しい蛍の大群が乱舞するのです。「蛍を見るのは何年ぶりじゃろう」
「にいちゃん・・・!」三七子は思わずそうもらすのです。
110ページの作品ですが、この夏読み返してみて、思わずほうーっと感動しました。短編だからこそできる、練りに練られたストーリー展開。まるで映画でもみているようなコマ割りや構図。全編を通して流れるほのかな旅情、すばらしいのひと言です。

それにしても、舞台となった「日吉瀬」という紙漉(かみすき)の町はどこにあるのだろう。気になって調べてみましたがヒットするところはありませんでした。想像ですが九州熊本のどこか、という気がします。きっとちば氏が旅行の途中で立ち寄った町に取材したのかもしれません。